2012年12月6日木曜日

10代の頃


ちいさな引き出しのなかにあった、
なつかしい、フロッピーディスク。


開いてみたら、高校~大学時代に書いた創作物が。
いくつかピックアップしてみました。



鳥になったお母さん

私のお母さんは鳥になりました。
私みたいな悪い子はいらないと言って、
私を置いてどこかに飛んでいってしまいました。

私が良い子だったら、
お母さんは鳥になることはなかったでしょう。

私が悪いんです。

お父さんもあばあちゃんもみんな言います。
「おまえは悪い子だ」と。
私もそう思います。

はあ・・・。
私はおうちに帰れません。
お父さんもおばあちゃんも、
私みたいな悪い子いらないと言っていましたから。
とても悲しいです。

だから、私はどこかに行こうと思います。
鳥になったお母さんを見つけようと思います。

チョコを持って、公園に行きました。
お父さんにいじめられていたお母さんは、
よく公園で泣いていました。
「どうして、泣いてるの?」って聞いたら、
「あんたのせいで怒られたんでしょ」って言われました。
私は「ごめんなさい」としか言えなくて、
そんな私がお母さんは嫌だったみたいです。

次に橋の上に行きました。
「死にたい」とつぶやいていたお母さんは、
よく川を見つめていました。
「どうしたの?」って聞いたら、
「死んだら、どうなるのだろう?」と悲しそうに言いました。
私はお母さんを見つめることしかできなくて、
そんな私はとても悪い子でした。

お母さんはいつも優しかったのに、
私はいつもお母さんを困らせていました。

お母さんに泣きながら、
「どうして、言うことを聞いてくれないの?」って
言われたとき、悲しかったです。

だから、私は良い子になりたくて、
お母さんを鳥にしてあげました。

お母さんはきっとどこか遠くに行ってしまったと思います。

お母さんは橋から空に飛び上がったとき、
私の手首を強く握って、こう言ったのです。

「なんてことするの!?助けて・・・」。

いいことをしたのに、
どうしてお母さんは喜んでくれなかったのでしょう。

お母さんに握られた手首が真赤になっています。



道化師


わたくしは
下っ端の道化師でございます
修業期間十年と
まだまだでございますが
多くの技を習得して参りました
プラスチック性の笑顔の仮面
お客様を退屈させないための話術
私という人形を操る細い糸
感情に左右されない腹話術
初めて道化を披露したのは
家族の前でしたでしょうか?
あの時はまだ未熟でございました
お客様を楽しませるのが
わたくしのお仕事でしたのに
皆様を不機嫌にさせるばかりでした
わたくしながら
お恥ずかしい過去でございます
けれど
その日から
わたくしは道化師の道を志しました
いつの日にか立派な道化師になって
家族の笑顔を見たいと思いました

今は
下っ端と言えど
其処ら辺の道化師には負けないつもりです
自分で言うのもなんですが
誰もわたくしの道化に気づいていないのです
いえ
一度だけばれたことがございます
わたくしがいつものように笑っていましたら
とある年老いた男が申したのでございます
「あんた、いつも淋しそうやな」
はっとしました
プラスチック性の仮面に
ヒビが入ったのかと思いました
わたくしは
その男に最高の笑顔を見せてやりました
でも
男はただじっとわたくしの顔をみるのです
わたくしはその場から逃げ出しました
不覚でした
まさか道化がばれるなど
まさか、そんな・・・

わたくしの尊敬している
ある道化師も
一人の男に見破られたそうでございます
その道化師は
その男にだけ心を開いたそうですが
わたくしは見破られたからといって
心など開きません
わたくしは
自分の道化に自信を持っていますもの
あの男にも見破られないほどの
道化を披露してやります

でも
この頃
プラスチック性の笑顔の仮面の
調子が悪いのでございます
腹話術もイマイチでございますし
話のネタも少なくなり
だんだんと口数が少なくなって参りました
ああ
どうしたことでございましょう
職業病でございましょうか
ひどく疲れるのです
夜も眠れず
頭を金鎚で殴られているように
激しい頭痛が襲うのです

ああ
わたくしは
いつまで道化師でいられるでしょう?
仮面を外したときの
お客様の表情が恐いです



涙は零れない


「なんで泣いてなかったん?」
と訊かれたあの日
母の葬式後の昼下がり
私は瞳を伏せた

泣きたかったのに
泣けなくて
冷静な自分がそこにいた
泣き崩れる父を見下していた

「冷たい子ね」
とみんなは言うけれど
私のこころ
何も感じない
ただ足の痺れ
気になるだけ

同情の声
愛想笑いする
親戚の目
視線を反らす

空に立ち上る煙
風に流され何処に逝くのか

その夜、空で眠った私
背中を風が吹き抜けていく
「あっ・・・」
瞳から涙が零れた


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